『すきバサミは使いません。』
『髪は1本1本彫刻のように削ります。』
そう語るのは、ドライカット専門の美容師・後藤亜実さん。
『ドライカット』と聞くと、乾いた状態でのカットかな?と考えると思いますが、実際はまったく似て非なるものでした。
なんと、髪の1本1本のクセや落ちてくる位置を考え、すべてを計算して完成させる・・・まさに『髪の彫刻』。
くせ毛の扱いが劇的に楽になるという、そのくせ毛を活かす『ドライカット』について徹底的に聞き出してきました。
Contents
『ドライカット』ってなんですか?
普通カットをするときは、濡らした状態で長さを調整したりしますよね。
まずもちろん、ドライカットが普通のカットと違うのは『全て乾かした状態で切ること』です。
ただ私の『ドライカット』は乾かして切るだけでなくカットするときに、
- ハサミ
- アイロン
- ブロー(ドライヤー)
これらを全部使いながら切っていくんですよね。
例えばくせ毛の人も、まっすぐに伸ばしながらカットしていきますよ。
ただし、それは単にまっすぐにするためのアイロンではないんですよね。
カットの時にアイロンやブローを行う??
あの、えっと、今までカットと同時にアイロンをかけたりしてもらった記憶がないので・・・ちょっとイメージがつかないです(笑)
どういうことですか?何か理由があるってことですか?
『すきバサミ』を一切使わない
そうですそうです。
どんな髪の毛にも、みんな本来の髪質とか毛流れっていうものがありますよね。
例えばくせ毛の場合、どこかにすきバサミを入れたとしたら、そこ(カットされた部分)から先が動くんですよね。
すきバサミを入れた部分までは1本1本地毛のままなのに、そこから先はすかれた状態になります。
髪をすくと、その中で不用意に動く毛が出てきたり、パサついたり乾燥して見える毛が出てきます。
もちろん『すきバサミ』を使う派の方もいます。
でも、私の考え方としては『せっかく元々の自分の綺麗な毛流れがあるのに活かした方がいい。その毛流れをすいてしまうことで崩すのはもったいないよね』という発想ですね。
やっぱり地毛のままの方が、キューティクルが整っていてツヤも出やすいんです。
ポイント
ドライカットでは『すきバサミ』を使わない。
じゃあ、どうやって髪を切る?
本当に1本1本、1cmづつ切っていきたいくらい、彫刻みたいに積み重ねていくようなイメージで作っていきます。
ドライカットの場合は、落ちてくる場所を狙って自分の髪のくせも活かして、それらを計算して完成させます。
そのまま自然の流れで、落ちてきてほしい位置に毛先が落ちてくれるんですよ。
カット時にアイロンを入れる本当の理由
ところでさっきのアイロンの話に戻るのですが、
落ちた位置を計算してカットするのだとしたら、アイロンで伸ばしちゃうと場所が分からなくなってしまうような気がするのですが・・・
それってくせ毛の場合、大丈夫なんですかね?
カットの際のアイロンは、毛先を見やすくしてカットを行いやすくするために使っています。
実際には、毛先だけじゃなくて全体にアイロンを入れていくんですけど、『髪が落ちてくる場所』を見るためにかけているんですよね。
『先にまっすぐにしたら、伸ばした後に自分のクセが分からなくなるんじゃないの?』ということはよく言われるんですけど、そこももちろん計算しています。
計算したうえで、髪が落ちてくる位置を逆算して作りますね。
なるほどなるほど。
最初に伸ばして、クセの強さも計算した上でカットしていくんですね。クセが出て、これぐらいの位置に来るだろうなっていう。
ポイント
ドライカット時のアイロンは毛先を見やすくするため。元のクセも計算してカットしている。
ドライカットは『彫刻作品』
そうやって、根元から毛先までしっかり束で残っていると、『絶対にこの位置で落ちてきてくれる』って言うのが分かるんですよね。
そうやって狙って形を作っておけば、完成後はその形で狙った位置に全ての毛が落ちてきてくれます。
そういうことです。
そこに、少しでもすきバサミが入ってくるとずれてしまいます。
だから、なるべくすきバサミを入れた髪がない状態まで持っていけると、ドライカットの良さが一番感じられる状態になりますね。
いや、すごい・・・。これはすごい!
本当に、全体が予定調和になっているような・・・まるで『作品』に近いイメージですね!
本当に作品を作っているようなイメージですね。
めちゃくちゃ神経使うし、目をめちゃくちゃ使うので目が悪くなるんですよ(笑)
本当に作業が細かいので。見方や考え方が、普通のカットとは全く違うんですよね。
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goto ami の仕事。
ドライカット✂︎
一切すかず、髪全てを生かす。
シルエットも思いのまま‼︎1本1本、髪の彫刻を作っていく様子はコチラ↓↓ pic.twitter.com/PtGEpXIaAM
— あーみー (@go_to_ami) 2018年11月25日
普通のカットだったら全体のバランスを見ながら調整しますよね。例えばボブスタイルなら、『まずバツっと長さを切ってしまって、そのあとに重さの調整をする』みたいなイメージ。
でも、ドライカットの場合は最終地点の輪郭が明確にあって、1カット1カットの過程全てがその輪郭をなぞるよう作るイメージなんですよね。
本当に神経は使いますね~!!(笑)
例えば、終わってから『もう1cm短く!』って言われたら、さらにもう1時間半かけないといけないです(笑)
全てバランスを考えて作っているので、1cmズラすだけでも全体を作り直さないといけないですね。
ポイント
ドライカットはめちゃくちゃ神経を使う。
ドライカットは普通の『倍』の時間がかかる
え、ちょっと待ってください、あみさん今しれっと『もう1時間半』って言いました?
カットだけで1時間半もかかるんですか!?
はい、1時間半かかりますね(笑)
カット1時間半・シャンプー30分で、だいたい合計2時間ぐらいかかります。
自分の毛質全てを活かしたスタイルにするなら、やっぱり本来の倍以上の時間はかかりますね。
時間が倍かかるので値段も倍くらいになりますが、それ以上の価値はあると思っています。
なるほどなるほど。
では、ちょうどせっかくなので・・・ドライカットの『良いところ』について教えて頂いてもよろしいでしょうか?
ドライカットだと何がいいの?
そこは重要です!
この『スタイリングが楽になる』というのには根拠があります。
ドライカットでは根元から全て同じ毛があるので、乾かしただけで全部落ちて欲しいところに落ちてきてくれます。
『いくら伸びても、ずっとこの形にしかならないよ~』っていうようなイメージですね。
それはさっきも説明して頂いたように、落ちてくるように設計しているからですね。
あとは、ツヤの出方も全然違います。
とりあえず、私のお客さんで枝毛の人は誰もいないと思います。
あれ、これ、言っちゃってもいいのかな?笑(その場にいる同業の方に問いかけて)
でも、本当にいないので(笑)ウチに来る方は、みなさんケアの意識が高いのもありますけどね。
やっぱり、『すかない』っていうだけで毛先がすごいツヤがあるんですよね。もちろん普通のハサミでも、深く入れすぎるとすくのと同じような状態になっちゃいますけど。
そこは本当に、毛先を『筆』みたいな感じに少しずつズラして、先細りにするっていう技術があって・・・
なるほど!今、やっとイメージができました。
『すく』のとは違って、少しずつグラデーションのように長さが違う。つまり、筆のようになっているということですね!
そうです!
そういうものを全部積み重ねてナチュラルにしているので、全部自分の毛でちゃんとキューティクルも整っているんですよね。
すきバサミの場合は先細りすると言うか、『先細りになる』というイメージに近いです。
すきバサミだと、こうやってすくと思うんですけど、こう穴が開くようなイメージで・・・
なるほど。
すきバサミだと計算されて先細りにさせているわけではないんですね。
カットの持ちが良い
あとドライカットの特徴として、カットの持ちがめちゃくちゃいいんですよ。
スタイルが崩れないので、伸びたら伸びたまんまの形そのまま落ちてくるみたいな。
すいてあるスタイルの場合だと、ランダムだからある程度伸びてくると崩れてきます。
めちゃくちゃ持ちます。
ロングだったら半年から一年が普通です。男性もすごいベリーショート以外なら3ヶ月とか持つ方も全然います。
普通のショートくらいだったら、1カ月半とかで扱いづらくなってきますよね。
めんどくさくて2カ月3カ月放置して、我慢ならなくなって切りに行く、みたいな(笑)
たぶん1か月半とかだったら全然大丈夫ですね。
『長さだけ伸びる』みたいなイメージなので、全体のバランスは崩れません。
ただ、本当はもうちょっと早く来て欲しいんですけどね。この間の技術満足してくれなかったのかな?とか不安に思っちゃうので(笑)
でもやっぱり嬉しいですけどね。ありがたいことにリピートしてくださる方も多いです。
くせ毛を活かすので縮毛矯正のお客様がいない
体験してもらうと一番わかりやすいんですよね。
本当にスタイリングが楽になるし、クセはもちろんきれいに出る。
くせ毛で悩んでいる方だと縮毛矯正する方が多いと思いますが・・・私のお客様の場合、逆に縮毛矯正をかける人はほぼ一人もいないです。
かけるとしても前髪と顔周りをポイントでかけるくらい。全体の縮毛矯正をするはいないです。
本当に『癖を活かす』っていうイメージですね。
くせ毛で悩んでいると、縮毛矯正をやってる人も多いと思うんですけど・・・
『一生これをやり続けるのか?』っていう不安はみんなあると思うんですよね。時間もお金も。
そういう心配をされている人が多くて。だから、なるべくやめられるような方向にもって行けるように努力します。
せっかく元々からある髪だから、できれば自分の髪を活かしてほしいという気持ちもありますね。
最初は、『やめられるの私??』っていうような感じで来られますが(笑)
ポイント
縮毛矯正をかけるお客様はほぼいない。
ドライカットの弱点
ドライカットは、本当にそのお客さんの髪質に合ったスタイルを提供する技術です。
なので、そのお客さんの髪質に合わないスタイルをオーダーされる場合は、しっかりとした話し合いが必要になります。
例えば、若い女の子のスタイルでドーンと重いボブスタイルとかあるじゃないですか。
あの重いボブスタイルをしようと思うと、毛先の長さを揃えることになるのですが・・・
そのお客さんの毛量によっては、どうしてもすかないと重くなりすぎる場合があります。
めちゃくちゃ髪の量の多い人と少ない人が、同じ長さでバツっと切っても髪のボリュームや量が全然違うじゃないですか。
そこで、普通の場合はカットですいて減らすんですね。
ですがさっきも説明したように、ドライカットの場合は量を減らすのにちょっとずつ削っていきます。
そうなると、髪の毛の多い方は、すいた方が触った感じちょうど良い量になりますが、
- その分広がりやすくなったり
- ツヤが失われたり
- スタイリングがしづらくなったり
というデメリットも出てきてしまいます。
ですので、『絶対にこの形にしたい!』というような場合は、ドライカットが合わないというケースも出てきたりします。
もちろん、それでもやりたい!っていう場合は、『それをするとこういう風にはなりますよ』みたいなデメリットの部分もちゃんと伝えますね。
ポイント
ドライカットは髪質を活かしたスタイルを作る技術なので、合わない場合もある。
『体験してみる』ということは大事
実際にこの間も、3年4年ずっと通ってくださってる方でそういうことがありました。
すごい髪の毛が量も多くてクセもちょっとあって・・・という方が、『重いボブをしたい』ってオーダーされたんですね。
どうしても『やりたい』とおっしゃってたので、季節的に今なら行けるかも?と思ってやってみたんですけど・・・。
3ヶ月後には『言ってた通り、やっぱり合いませんでした!』といって、元のスタイルに切り替えました。
『やって体験してみる』っていうのは私は大事だと思っています。
やっぱり話だけでなく実際に体験してみないと分からないですし、もしかしたら合うかもしれないじゃないですか。
私は重いって思うかもしれないですけど、その人の感覚には合うかもしれない。
だから、色々とチャレンジしてみてほしいな、っていうのはいつも思ってはいます。
最初は『ドライカットってなんだ?』と思っていましたが・・・。お話が終わったころにはすでにカットしてもらってみたくなっていました。
1本1本、1cm1cmずつ削って完成させる『ドライカット』の魅力が伝わったのは、私だけではないのではないでしょうか。
クセを活かしたスタイルを探している方にとっては、まさにうってつけの技術かもしれませんね!
後藤亜実さんについて
- 後藤亜実さんのブログ
http://ami-goto.com/ - インスタグラム
https://www.instagram.com/amii510 - Twitter
https://twitter.com/go_to_ami
『ドライカット』というのは聞いたことがありますが、『普通に乾かして切る』というのとはまた少し違うんですかね?
1本1本削ると言われると、ちょっと想像が・・・つかないですね(笑)